Photo by Masahiro Kobayashi
GROOVETUBE FES. ’22(以下gtfes. ’22)が2022年5月8日に千葉県横芝光町の屋形海岸にて開催された。2020年に開催予定だったgtfes. ’20は相当数のラインナップが発表されたもののコロナ禍によって中止、昨年は引き続き開催できる情勢ではなく、実に3年ぶりの開催である。毎年回を重ねるごとに充実していくアクトの準備やフードなどの手配を一旦白紙にする労力や金銭的リスクを負担する主催者の気苦労は、察するに余りある。
3年のあいだにいろいろなことが起きた。亡くなる人だっている。
ライブアクトのトップバッターは前回gtfes. ’19で千葉の英雄ジャガーさんのバックを努めた横芝光町のニューヒーロー、チーターさんである。言うまでもなくジャガーさんは昨年、ジャガー星へお帰りになったため今回のライブはそのトリビュートの意味もある。ジャガーさんの曲を演奏するチーターバンドは前回よりもぐっと演奏力が上がり、サポートコーラスのベンガルさんと相まってよりカラフルなバンドになっていた。「好き」が伝わってくるモトリークルーのカバー、『Kickstart My Heart』での大学軽音感に目眩がしつつ、ステージ前に陣取った子供たちの食いつきが凄かった。大人気だ。
2番目に登場したのはKiliKiliVillaレーベルからのリリースも決定しているStrip Jointだ。ステージに立つ6人は男女の構成率が同じで立ち姿がすでにかっこいい。不思議なコード感と深めのリヴァーヴのギターが暗くて良い。メンバーにトランペットがいる。ベルセバやベイルート、そういやBEYONDSもそうか、トランペットがいるバンドは良いバンドが多いのだ。歌詞はすべて英詩で英語の響きも自然。Spotifyでの再生回数が伸びれば海外でも聴かれるチャンスは昔よりずっと多い。昨今の洋楽・邦楽のジャンル分けの無意味さをも軽々と飛び越えていけるようなバンドだと演奏を聴きながら思った。
3番目の遊佐春菜さんはgtfes史上最大のインパクト、Have a nice day!(以下ハバナイ)のキーボードとして出演しており、今回はソロでの登場。リリースされたばかりのソロアルバムはハバナイの楽曲を再解釈して新録したもので、さらに第三者に託したリミックス版も同時リリースするという珍しい内容だ。ソロライブ自体がレアであるため、ラップトップとキーボードで演奏されたこのライブに立ち会えた方々は幸運だったと思う。ディストピアの中からの希望を唄う歌詞が、図らずも、今の状況とシンクロしているようでぐっと来た。
4番目はサニーデイ・サービスである。
まさか。以前主催者は「サニーデイがgtfesに出たら最終回だね」と軽口を叩いていたはずである。こんなことが起こったらいいな、が現実に起きた。リハからサニーデイの面々がステージに登場し、ジャムセッション的な演奏が始まってしまった。去年の渋公、先日の豊洲ピットと最近のサニーデイのライブを観て思うのは、バンドの音が純度を増し、極めてプリミティブになってきているということ。ギター、ベースはアンプ直、ドラムは出音のボリュームが並ではない。この日のステージも同様に、エッジの立ちまくった最新のサニーデイ・サービスを見せつけた。MCでの曽我部さんによる「サニーデイでgtfesに出たかった」の一言で泣いた人は多いと思う。余談だが今回横芝には曽我部さんの愛犬こはるちゃん(インスタでいつも見ています!)も帯同しており、見たものすべての心を奪っていった。
大トリを飾るのはSUGIURUMN率いるTHE ALEXXだ。中止になったgtfes.’20にもラインナップされており、同年8月には円形セットを組み、ここ屋形海岸での無観客ライブ映像を撮影している。そんな経緯もあり、今回のライブは満を持しての待望のステージとなった。トップDJとしてダンスミュージックを知り尽くしたSUGIURUMNが再び組んだバンドはジョニー・マー直系のギターに加え、幾つもの円筒形のガラスを共鳴させるグラスハープやテルミンなどの音色が組み合わさり、他の何にも似ていないサウンドだ。夕暮れ前のダークな雰囲気の中演奏された『Outsider』は素晴らしかった。
制限と自由は一見、相反するものに思われる。感染対策のために講じた対策も相当悩ましかったと思う。
しかし、3年ぶりのgtfes. ’22はゲート内のライブエリアと外のフードエリアにゾーン分けされ、入場せずともフードを購入し、丘の上からもライブを楽しめるような仕組みが構築され、結果的に、より自由で地域に開かれた場所として機能していた。
制限が創造性を高めたのだと思う。
「来年もよろしくお願いします」
壇上に立った締めの挨拶での主催者は頼もしかった。最終回ではなかった。来年のgtfesも楽しみだ。
text by 黒田直樹 (twitter @warp2warp)